セルフケアによる温灸の効果〜妊娠期を中心として〜(その2)
12月も半ばになりました。
気温が高くなったり、低くなったり、師走とは思えない気候が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
澄み渡る青空に、黄金色に映える木々が美しいですね。
2019年10月27日(日)「第50回現代医療鍼灸臨床研究会」にて、テーマ「セルフケアによる温灸療法の効果〜妊娠期を中心として〜」と題しまして、安野富美子先生(東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科教授)にご講演いただきました。
「マイナートラブル」って聞いたことがありますか?
「マイナートラブル」とは、妊娠中に自覚する不快症状のことです。
では、どんな症状が「マイナートラブル」として多いのでしょうか。
助産師さんの研究グループが発表したデータ(*1)を見てみましょう。
623名の妊婦さんに妊娠中感じた自覚症状についてアンケート調査をしました。
95の症状について「いつもある」「ほとんどいつもある」「たびたびある」「時々ある」「まれにある」「ぜんぜんない」の6段階で答えるというアンケート調査でした。
1人あたりの「マイナートラブル」発症数は2症状〜46症状で平均27症状であることもわかりました。
グラフ以外で多い「マイナートラブル」は
「胃の圧迫感」「食欲増進」「便やガスによるお腹の膨満感」「吐き気」
「下腹部の緊張やひきつれ」「乳房の緊張」
「肩こり」「骨盤の痛み」「腰や背中の痛み」
「ぐっすり眠れない」「皮膚の乾燥」「匂いに敏感になる」
などでした。
次に、お灸でセルフケアをすることによって「マイナートラブル」を緩和することはできるのでしょうか?
「妊娠中にお灸をした」場合と、「妊娠中にお灸をしなかった」場合とを比較してみました。
鍼灸師さんと助産師さんの研究グループが発表したデータ(*2)を見てみましょう。
妊娠中に「お灸をした106名」と「お灸をしなかった91名」とを比較しました。
(お灸をすえた時期)妊娠24週以降
(お灸をすえたツボ)「三陰交(さんいんこう)」 その他2〜4ヶ所
「太渓(たいけい)」「湧泉(ゆうせん)」「築賓(しくひん)」「至陰(しいん)」
(お灸をすえた個数)それぞれのツボへ1~3個
(お灸をすえた頻度)週4回以上
「トイレが近い(頻尿)」と「口がかわく(口渇)」はお灸をはじめてから1ヶ月後に改善がみられました。
「疲れやすい」「全身の疲労感」も2ヶ月後に改善がみられました。
「妊娠中にお灸をした」場合、出産時には「マイナートラブル」が緩和していたことがわかりました。
次に、お灸でセルフケアをすることによって「分娩所要時間」に変化があらわれるのでしょうか?
「妊娠中にお灸をした」場合、「妊娠中にお灸をしなかった」場合よりも平均約2時間 「分娩所要時間」が短かったことがわかりました。
「切迫早産」「前期破水」「微弱陣痛」いずれも、お灸を続けた ママ(妊婦さん)の方が、トラブルが起きる比率が低いこともわかりました。
妊娠中のママにとって、お灸が良い理由がわかりましたね。
安定期(20週以降)に入ったら、お灸によるセルフケアを始めましょう。
「妊娠中のママがセルフケアのためにお灸をする理由
・ママが毎日の生活の中で不快と感じる自覚症状「マイナートラブル」を緩和する。
・赤ちゃんの順調な発育をうながす。
・出産時に、ママと赤ちゃんの負担(=分娩所要時間)を軽減する。
なお、妊娠中、お灸でセルフケアをする場合は、次の条件を満たしてください。
・母子ともに健康であること。
・事前に掛かりつけの産科医のご承諾をいただくこと。
・鍼灸師の指導を受けること。
産前、産後のママをサポートしている鍼灸師「せんねん灸セルフケアサポーター」を「せんねん灸セルフケアの森」で検索して、ご相談くださいね。
検索キーワード「妊娠」「産」「頻尿」などです。
参考文献
(*1)
「現代の妊婦のマイナートラブルの種類,発症率及び発症頻度に関する実態調査」
新川治子、島田三恵子、早瀬麻子、乾つぶら(日本助産学会誌 Vol. 23, No. 1, 48-58, 2009)
(*2)
「鍼灸は妊婦のQOLを高め安産に貢献できるのか?―温灸療法の効果と安全性―」
辻内敬子、家吉望み
(つづく)