講演・対談・インタビュー

LECTUREお灸は世界を変える

イギリスのチャリティー団体 Moxafrica(モクサアフリカ)は、2008年より灸による結核治療に取り組んできました。
代表理事Merlin Young(マーリン・ヤング)先生が来日された際、Moxafricaの活動と研究成果についてご講演をしていただきました。

PROFILE

  • Merlin Young先生
    マーリン・ヤングMerlin Young先生

    Moxafrica代表理事。2008年にモクサアフリカ慈善団体を設立。日本式直接灸による結核、薬剤耐性結核、AIDSウイルス重複感染結核治療の有効性を調査研究する。

  • 伊田屋幸子先生
    いたやさちこ伊田屋幸子先生

    Moxafrica理事。イギリス デボン州在住。カリフォルニア州鍼灸師。ヨーロッパ、アメリカ、日本にて鍼灸治療およびお灸の講演を行う。

Moxafrica HP www.moxafrica.org      
モクサアフリカ日本事務所準備室 facebook https://www.facebook.com/MoxafricaJapan/

世界中のますます多くの人々が、
お灸博士 原志免太郎先生の精神に触れ、救われることを願っています。

皆さんは、なぜ、イギリス人の私がお灸について話しをしているか不思議に思っているでしょう。お灸は日本の文化ですが、皆さんが思っている以上に、非常に貴重な文化であることを理解していただきたいからです。お灸は人類を救うかもしれないというところまで来ています。日本だけではなく、世界で非常に重要なものになっていることについて説明をしたいと思います。

結核について

結核とは、結核菌により引き起こされる感染症です。多くは肺が侵され発病しますが、肺以外の臓器も侵されます。結核を発病している人が「せき」「くしゃみ」をすると結核菌が空気中に飛び散り、他の人が菌を吸い込むことにより空気感染します。感染後は2つのステージに分けられます。「感染しているけど発症していない状態」と「発症している状態」です。結核菌に感染していても通常の免疫状態であれば90%の人は発病しません。

結核の統計的経緯

日本では明治時代の産業化、都市化により、結核が急激に蔓延し、年間死亡者数も10数万人以上にもなり国民病と恐れられました。世界的な状況も深刻でしたが1940年代に抗結核薬が開発されて、発病者数は減少します。日本は戦後になって生活環境が良くなったことと薬が入ってきた時期がほぼ同じなので、そこから一気に減少します。
では、結核は過去の病気かというと、そうではありません。世界では20億人の人がすでに結核に感染しています。世界総人口の約 3 分の1、3人に1人です。世界全体で死亡原因となる感染症の第1位です。2014年には960万人が新たに結核を発病し150万人が亡くなりました。結核で亡くなる人のほとんど多くが、公衆衛生が整備されていない貧困国の人々なのです。

結核の現在 深刻な問題

結核の高蔓延国はアジア、アフリカに集中しています。現在は薬※1もあるしワクチンもありますが、貧困国の発症率の高さは変わっていません。ということは、ワクチンは効かないんです。薬があったとしても、栄養状態や生活環境が良くなければ、薬があっても効かない状況なのです。なぜなら、貧困が結核を流行らせる一番の原因だからです。そして、現在は貧困プラスAIDS(エイズ)の問題です。AIDSが発症すると全ての免疫機能が低下するので、もっと病気が難しくなります。結核とAIDSにかかっている方はほぼ全員が結核を発症してしまいます。これは免疫に関係しています。免疫力があるかないか。貧困の強いアフリカでは非常に問題になっています。今日一日で25万人の人が結核にかかっています。そのうち3万人の人が発症します。そして毎日5,000人が結核で亡くなっています。
数値はどんどん悪くなっていっています。世界の誰にとっても非常に深刻な問題なのですが、貧困国にとってはもっと深刻な状況です。結核治療は非常にお金がかかりますが、薬があってもほとんど治療ができない状況です。私たちが唯一分かっていることは、多剤耐性菌※2、超多剤耐性菌が増えているということです。考え始めると心が暗くなります。皆さんにもこの深刻な状況を分かっていただかないと、何故ここでお灸が大事になってくるかが分からないと思います。

  • ※1 日本の結核標準治療:初期2ヶ月間の4つの抗生剤による治療とその後4ヶ月間の2つの抗生剤による治療の合計6ヶ月間の治療。アフリカの治療期間は8ヶ月間。
  • ※2 治療期間が長いことと薬剤の副作用に堪え兼ね、治療途中での離脱者が多いことが、多剤耐性菌、超多剤耐性菌の原因となっている。

お灸博士 原志免太郎先生との出会い

私はイギリスで鍼灸を学びました。お灸の可能性に触れたのは、医学博士 間中喜雄先生の文献です。澤田先生と深谷先生のことが書かれていました。間中先生はお灸のことを非常に重要視され「鍼が効かない場合はお灸をしなさい」「難病、一般的な治療が効かない病気にはお灸をつかいなさい」と書いてらっしゃいました。結核に取組むようになったのは、アメリカの医学博士ポール・ファーマー(Paul Farmer)先生の影響です。貧困国での結核とAIDSによって多くの人が苦しめられている現状を知り、心を傷めたことがきっかけです。そして、NAJOM(北米鍼灸医学誌)を通じて、医学博士 原志免太郎先生がお灸と結核の関係について研究をされていることを知りました。原先生は昭和4年、46歳の時に灸の研究についての学位論文※3で博士号を取られ、お灸博士と呼ばれています。
原先生は、(1)ウサギへの施灸後、皮膚組織におけるタンパク変性と血液中の血球変化、とくに白血球数の増加が免疫性を増強し、病気予防に有益であること。(2)ウサギを4つのグループに分けて結核菌を感染させ、結核菌を感染させる前からお灸を始めたグループが最も良好な結果を示したことを発表されました。そして原先生は、健康な時にあらかじめ灸をしておくことが結核に対抗する最良策と考えるに至ったのです。

  • ※3 ①灸の血色素量ならびに赤血球数に及ぼす影響 ②施灸皮膚の組織学的研究 ③火傷及火傷家兎血清の血液に及ぼす影響 ④灸を施せる結核動物の治癒傾向について

Moxafrica(モクサアフリカ)設立
お灸による結核治療への挑戦

もし抗生物質が開発される前に、お灸が結核から人々を救っていたのであれば、薬剤が効かなくなってしまった現代でも、お灸は結核治療の助けとなるのではないか。原先生の時代には、AIDSはまだありませんでしたが、お灸により免疫力が高まるなら、お灸で結核とAIDS両方治療できるのではないか。私たちはこの問いを突き止めるためにチャリティー団体Moxafrica(モクサアフリカ)を設立しました。
私たちは結核の高蔓延国、アフリカ・ウガンダでパイロットスタディを始めました。お灸は家庭でできる効果的な治療法として簡単に患者へ教えることができます。灸治療を現地のヘルスワーカー(看護師など医療従事者)に伝授し、そして彼らが患者たちを指導して、お灸を毎日の治療として習慣化させることを考え実行しました。幸運にも、現地のヘルスワーカーたちは、どんなものでも助けになるのであれば、試してみる価値はあるとお灸を受入れてくれました。そして、患者たちもまた、信頼あるヘルスワーカーのもとお灸を受入れてくれたのです。

  • 患者による足三里への施患者による足三里への施灸
  • ヘルスワーカーの施灸実習ヘルスワーカーの施灸実習

患者約50人のパイロットスタディでは、お灸によって体力、食欲の回復と、薬剤の副作用である関節痛、易疲労感の改善がみられました。この結果は、原先生が80年前に結核治療にお灸を推奨した理由を事実として明確に表すものでした。南アフリカでのパイロットスタディでは、足三里のみへの施灸でかなりの効果があることも分かり、ヘルスワーカーによる施灸指導の簡素化と、患者自身の施灸継続性を高めること、もぐさのコスト抑制などを考慮して、足三里のみに限定して研究を進めることにしました。
モクサアフリカの目標は、お灸を使った結核治療がアフリカで広まり、世界がお灸に対する理解を深めることです。そのためには、科学的根拠を提示することが不可欠です。私たちは、マケレレ大学(ウガンダ・カンパラ)と共同で、お灸による結核治療についてランダム化比較試験(RCT)を行いました。180名の患者を被験者として「抗生物質+施灸」治療群90名(うちAIDS発病者24名)と、「抗生物質のみ」治療群90名(うちAIDS発病者25名)の2グループに分けました。なお、多剤耐性結核の患者は入っていません。治療期間中、毎日、足三里へ7壮、両足あわせて14壮を継続して施灸してもらいました。データの収集方法は、科学的研究に基づき「喀痰検査」「血清学的検査」「免疫学的検査」「レントゲン検査」を行いました。

患者背景患者背景

データの1つ目のカテゴリーは、結核菌が陰性になるまでの速度を計ります。患者に唾を吐いていただいて、結核菌がいるかどうかを検査します。灸治療群は最初の1ヶ月目で、感染力が落ちてきます。薬剤のみの場合は約2%しか感染力が減りません。とくにAIDSウイルス(HIV)重複感染症例では2ヶ月目に大きな差が出てきます。54%と80%ですね。

  • 全症例(180例)
  • AIDSウイルス 重複感染症例(49例)

2つ目のカテゴリーはCD4(細胞性免疫/血液中1μL中のヘルパーT細胞数:正常値700〜1300)です。CD4は免疫変化をする時に一番重要な数値です。AIDSウイルスはCD4を攻撃して数を減らします。全症例で施灸群はCD4が518から273ポイント増えて53%上昇。非施灸群は28%上昇でしたから、お灸の効果は顕著でした。AIDSウイルス重複感染例でもその差は明らかです。

  • CD4陽性T細胞の増加 全症例(180例)
  • CD4陽性T細胞の増加 AIDSウイルス重複感染例(49例)

    CD4陽性T細胞 標準値:700~1300

この結果は大きな成果であり、原先生の仮説を証明することになります。世界で最も問題となっている感染症である結核とAIDS。お灸はこの2つに効くということです。さらに研究が必要ですが、最終的には世界がひっくり返るくらいの発見になると思います。

お灸は人類を救うかもしれない 希望を現実なものとするために

標準的結核治療の治療期間6ヶ月に比べて、多剤耐性結核で8ヶ月〜2年、超多剤耐性結核では2年以上。医療費はそれぞれ20倍、200倍と莫大な費用がかかります。どれだけ新しい薬を作っても、それに対して耐性菌が必ず出てくるのです。それに対して、お灸は個人の免疫を上げるわけであり、多剤耐性結核でも、超多剤耐結核でも区別せずに効果を発揮することができます。
私たちの希望は、日本から始まった原先生の研究を日本で続けてほしいということです。多剤耐性結核、超多剤耐性結核の研究は非常に難しいし、早くその結果を出さないと、抗菌薬開発前の状態に逆戻りしてしまう。今、原先生が生きていたら、こう言うと思います。「みんな一緒、お互いさま」。世界中、国が違っても、世界全体、人類の問題だということです。今、私たちができることに最善を尽くしたいと思います。

  • 『萬病に効くお灸療法』
    『萬病に効くお灸療法』
    医学博士 原志免太郎著

    実業之日本社
    昭和8年5月18日発行

  • 伊田屋幸子先生
    点灸用艾
    白富士印 超特級品

    原志免太郎先生ご用達の弊社製点灸用もぐさ。現社長は、在りし日の原先生から直接、灸の効果について薫陶を受けました。灸治療を受けるために、全国から患者さんがいらっしゃっていたそうです。

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