講演・対談・インタビュー

INTERVIEWお灸をセルフメンテナンスの柱にする

鍼灸の婦人科、産科領域を社会の中で認めてもらうため、
積極的にご活動をされていらっしゃる小井土善彦先生、辻󠄀内敬子先生にお話しをお聞きしました。

PROFILE

  • 小井土善彦先生
    こいどよしひこ小井土善彦先生

    せりえ鍼灸室(神奈川県横浜市)院長。
    早稲田鍼灸専門学校(現:人間総合科学大学医療専門学校) 卒業。明治国際医療大学大学院鍼灸学専攻博士課程前期(修士)終了(鍼灸学修士)。筑波技術大学客員研究員。

  • 辻󠄀内敬子先生
    つじうちけいこ辻󠄀内敬子先生

    せりえ鍼灸室(神奈川県横浜市)副院長。
    湘南鍼灸マッサージ学校(現:湘南医療福祉専門学校) 卒業。広州中医学院(現:広州中医薬大学)留学。かながわ母乳の会世話人 。女性鍼灸師フォーラム代表。

妊娠期を中心とした女性と鍼灸のいい関係づくり

―辻󠄀内先生は鍼灸師の資格取得後すぐに中国へ留学されたそうですね。

辻󠄀内先生 鍼灸の見聞を広げようとアメリカヘの留学を考えていたのですが、友人から勧められ、結果として2年半、中国へ留学することになりました。中医学は、漢方、鍼灸、推拿に耳鍼を履修し、専門領域として中医婦人科学を学び、病院での実習もありとても勉強になりました。

―最初に、鍼灸の理想的なかたちとの出会いがあったのですか?

辻󠄀内先生 研修先は、中医学を診察の中心に据え、外来でも入院病棟でも鍼灸や漢方だけではなく西洋医学も取り入れて治療しているのを目の当たりにしました。患者さんを中西結合医学で治療をしていく理想的な環境でした。

―中国で学ばれたことを日本で活かそうと帰国されたんですね。

辻󠄀内先生 学んだ中医学でバリバリ治療できると思っていました。でも、現実は思うように効果は上げられず悩みました。そんな時、誘われた勉強会で、それまで私が知っていた鍼灸とは違う治療スタイルを体験したんです。ものにしたいという思いから治療技術の向上に取組みました。その後、勉強会メンバーの妊娠出産が相次ぐことに。婦人科を勉強する機会もなかったので、自分たちで妊娠出産のための勉強をしていこうって、一緒に勉強しはじめたのがこの頃です。子連れオッケーの勉強会でした。妊娠期の鍼灸をアピールする場となった『いいお産の日』へ参加するために結成した、女性と子どものための女性鍼灸師グループ『ぷれる』のメンバーです。その5年後に対外的、社会的な団体として『女性鍼灸師フォーラム』を立上げました。

一そこでの活動が、その後ずつとつながっていったんですね。

辻󠄀内先生 産科や婦人科領域に携わっている鍼灸師がいることを、社会的に認めてもらうために一生懸命でした。

一出産、育児の時期と『ぷれる』の社会活動が重なって、大変だったと思いますが。

小井土先生 子どもの面倒は僕が見て、勉強会やイベントには辻󠄀内が行く。僕が家と治療院を守る側で、10年ぐらい外に出ないでこもっていました。子どもを背負って治療をしてました。30年のうち10年間は私が子どもを見てたんですよ。その後も、仕事と家庭を分担して、保育園の送り迎えは8割がたは僕がやるし、家事も育児もほとんど半々でした。

一2人で1人という感じですね。おふたりは女性のための鍼灸の先駆けでいらっしゃいますが、 夫婦のあり方も同様な感じがします。

小井土先生 ほんとにそうなんですよ、2人で1人前の鍼灸師だった。辻󠄀内は男性と対等じゃないと嫌な方ですから。

辻󠄀内先生 やっぱり自分が元気で、あれもやりたいこれもやりたいといったところには、経済的にも、精神的にも女性が自立していないと、喪失感や従属的な考えに苛まれる気がするんです。女性って人のことばっかり考えているじゃないですか。

小井土先生 女性の社会的な立場、文化的な背景がまだ根強くありますが、人のためにカラダを使うことだけじゃなく、自分のためにカラダを使う発想を持ってもらいたい思いがあります。

—鍼灸と女性の関わりの中で、ライフサイクル(小児期・思春期・妊娠準備期・妊娠期・育児期•更年期・老年期)をご提案されていらっしゃいますね。

小井土先生 自分の状態を知る、自分の特性とか、良いところも悪いところもカラダとしてのそういうものも知るってすごく大事で、それに合わせてセルフプラン、ライフプランみたいなものを立てて、セルフプロデュースをしていただくようなカラダ側からのお手伝いが鍼灸にはできるという考え方です。

辻󠄀内先生 セルフプロデュースの中心はセルフケアです。セルフケアでうまくいかない時に鍼灸治療で軌道修正する。短期的な効果だけじゃなくて、長期的に自分のカラダをちゃんと見てくれる鍼灸師がいると、人生が楽に生きていける。そんな関係づくりを提案しています。30年前に生まれた娘さんが30歳。娘さんが今度子どもを連れて来て、30年前に出産をお手伝いしたお母さんが更年期になってまた戻ってきてというように女性でつながっている。鍼灸師が家族とつながっていけて、その人のライフサイクルだけじゃなく、孫の代まで続けてずっと一緒に健康管理に関わっていけるってありがたいことです。

—ライフサイクルを考えた時、思いどおりにならないカラダを認めることが大切ですよね。

小井土先生 9割の時もあるけれど6割ぐらいしか力が出ないときもある。波みたいのがあるというのが分かるようになるってその人のカラダのことを考えたらあたりまえのこと。健康というのは自分の好不調が分かるということだと思います。男性にとってもそれは同じ。本当は社会の仕組みを変えた方が病気は少なくなるんでしょうね。

辻󠄀内先生 自分の好不調を自分でととのえる。だからセルフメンテナンスが大切になってくるんです。お灸をセルフメンテナンスの大きな柱にしています。

—セルフメンテナンスとしてのお灸を続けるポイントって何でしょうか?

辻󠄀内先生 お灸でカラダが変わる体感をしてもらうことがいちばん。まず最初に、鍼灸師が症状とカラダをみてツボを指導し、お灸の方法を伝えることができれば必ずお灸の効果を実感してもらえます。本人がお灸の効果を実感できれば、それが継続する動機になるんです。

小井土先生 今の若い人は焚き火をしたことがないから草や木が燃える匂いって知らない。記憶の中にないからお灸の煙も「くさい」ってなっちゃう。そこへいかに引き込むのか、というのは効果であったり、それをやる意味が分かれば好きになっちゃうと思うんですよね。そうすると匂いも受入れられる。まだまだお灸のファンはいると思います。ただそれをやれる「きゅう師」がいなければ、お灸はなくなっちゃうので、お灸ファンが来た時に、絶対応えられるようにしておかなきゃいけない。

辻󠄀内先生 お灸のほんわかとした温かさって、カラダに心地よさとして残るんです。その気持ちよさを体感してもらうと、お灸のとりこになってくれる。お灸はカラダを変える素晴らしい道具であり、自分で据えられるのが大きな魅力。そこへ、ツボを的確に探してお灸を据える技術を持つ鍼灸師が介在していれば、着実にお灸の魅力が伝わっていくんです。それを広めていきたいですね。

  • 『お灸のすすめ』
    『お灸のすすめ』
    お灸普及の会編
    小井土善彦、
    辻󠄀内敬子監修

    セルフケアお灸で最も支持されるベストセラー。カラダが変わるを実感できる。発行:池田書店。価格:本体1,200円+税。

  • 『妊活お灸』
    『妊活お灸』
    小井土善彦、
    辻󠄀内敬子監修

    不調を改善しながら、妊娠準備期のカラダづくりと心をととのえるための一冊。発行:河出書房新社。価格:本体1,500円+税。

  • 『出産準備教室』
    『出産準備教室』
    辻󠄀内敬子著

    妊娠期の過ごし方や症状への対処法を、東洋医学の視点から解説。鍼灸師だけでなく、助産師による出産準備教室にも必携の書。発行:医歯薬出版。価格:本体2,200円+税。

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